夜空の琥珀
 
「でも、悪いことばかりでもなかったでしょ?」



 若葉くんが、温かい笑みで私を見つめていた。



「……うん、そうだね」



 城ヶ崎の気持ちを知ることができた。

 若葉くんが微笑んでいるように、いつか彼も笑うときが来るのかな?



「――紅林さん」



 黒い瞳は私を真正面から見つめる証。

 いつになく真剣な若葉くんに、身動きが取れなくなった。

 若葉くんが口を開こうとしたとき、彼のスマホがせわしく振動を始める。



「電話? だったら早く出なよ。引き留めてごめんね。また明日!」


「あ……紅林さん、部活、頑張って!」



 スマホと私が同時に動き出したものだから慌てていたけど、笑顔の応援は、ちゃんと聞こえた。

 それだけで足取りは軽くなり……というか、速くなった。



(……何を言おうとしたんだろう、今)



 すごく気になるのに、考えること自体恥ずかしく思えて、足早に剣道場へと向かうのだった。
 
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