夜空の琥珀
 
「言いたくないなら言わなくてもいい。僕はもうそれを問い詰めたりしない。

 だけど……ひとつだけ、僕のワガママを聞いてくれる?」 



 若葉くんの手が伸びてきて、私の手に触れた。

 すぐにもう片方の手も触れてきて、両方の手で私の手をそっと包み込んだ。



「……離れて行かないで」



 若葉くんの手は大きくて、まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れている。



「ほんの少し、今日だけでいい。一緒にいて。できるだけ僕の傍を離れないで」


「若葉、くん?」


「そうすれば……僕は僕のままでいられる気がするから」



 ギュッと、包み込む手に力が入った。
 

 彼が何を言っているのかわからない。

 そもそも私はなぜ若葉くんから逃げたのか、それすらもわかっていなかった。

 頭が混乱して、わけもわからないままうなずいてしまった。

 若葉くんは微笑む。心の底から。


 このとき私が感じたのは、若葉くんが安心してくれたんだなぁということと、何か大切なものを受け止め損ねたような、そんな気持ちだった。
 
< 159 / 295 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop