花と死(後編)
「もし、兄さんが良いならいっしょに暮らしてもいいよ?私、お世話する!」
「クラリスさまがいいもん。」
「兄さんは忙しいもん。そこは、ごめんね。」
メイフィスにシエリアは困った顔をする。
「わざわざ情をかける必要もないだろう。」
そう言ったのはヴォルフラムだ。
クラウジアも頷く。
「変に同情したとて、孤独が無くなるわけではない。それに、犬猫を飼うのとはわけが違うのだぞ。」
「わかってるよ。けれど、孤児院よりもこっちの方がきっと寂しくない。」
シエリアはクラウジアに言った。
そして、過去を思い出した。

両親が殺された時の記憶は残っていない。
ただ、自分の能力で兄と姉を助けたことは覚えていた。
そして、出稼ぎに行く兄と元々家を空けることが多い姉の関係で孤児院に預ける話があった。
孤児院に預けられたシエリアは友人が出来、すぐに溶け込むことができた。
それでも、孤児院に居ることは寂しかった。
周りは知らない人ばかり。
けれど、弱音を吐く訳にはいかない。
みんなと違って、ちゃんと両親に愛されていたのだから。

「知らない人ばかりより、知ってる人の傍がいいでしょ?」
そう微笑む姿は母のようなあたたかさがあった。
「チビが。大人ぶってるんじゃない。」
クラウジアはシエリアの頭を乱暴に撫でた。
「私と居ても寂しさは消えないけれど。」
それは唯の自己満足なのかもしれないとシエリアは思う。
「はぁー……」
クラリスは溜息を吐く。
「私がメイフィスの面倒を見れないとか、そういう問題ではない。孤児院の方が里親探しあるいは実の親を探すことが楽だろう。」
「……」
「私とシエンではこいつの面倒は見れない。悪魔族は危険だ。」
口を尖らせるメイフィスを見ないようにクラリスは言う。
「普通の悪魔族ならまだしも、こいつは恐らく純血種だ。」
そう言いながら、尖った耳を見遣る。
「耳なら、私やフランも尖っているぞ。一概に決め付けるのはどうかと思う。」
「確かに、純血種にしては日中の活動が劣っていない。だが、純血種は成長しきるまではそういう現象も起こると文献にあった。」
クラウジアに答えながらクラリスはメイフィスの背を見る。
リュックを背負っていたので、それをひょいと掴み上げた。
黒い小さな羽が見える。
「かえしてー!」
メイフィスが膨れっ面をしたので、直ぐにリュックを下ろした。
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