天翔ける君




夜鬼は食事の仕方も優雅だった。
千鬼もきれいに食べると思っていたが、夜鬼には貴族のような風格もある。

恵都は夜鬼に倣って食事に手をつけた。
そういえば昼頃に少し食べただけで、それからずっとなにも口にしていなかった。

食事は見た目通りに味付けもよかった。
しかし、恵都は美味しく感じられなかった。

千鬼の屋敷での食事は笑顔がたえなかった。
ふたりが町であったことを話してくれたり、妖の世界について教えてくれたり、その代わりに恵都が人間界のことを話したりした。

いつだって、そこには温かさがあった。
山吹の料理は元々おいしいが、余計においしく感じたのだ。


恵都は父の家での、話題に入れない食事を、そして学校での、ひとりになれる場所を探してする食事を思い出した。

――そうだ、あれに似ている。
味や出来立ての温かさはあるはずなのに、なにも感じない食事。

千鬼と山吹のおかげで忘れていた孤独を、恵都はじんわりと思い出した。

まるで染み出してくるように、それは恵都の心を侵食していく。
引き裂かれるような痛みはないのに、崖のふちにひとりで立っているような感覚だ。



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