天翔ける君




恵都に用意された着物も目を引く桃色で、大きな蝶が何匹も舞っている。
それを思うと、夜鬼がただ派手好きなだけなのかもしれない。

「座れ」

夜鬼が顎で自分の向かいを示す。

そこには華やかで豪華な料理ののった膳が用意されていた。
夜鬼の前にも同じものが置かれている。

「南天、下がってよいぞ」

素っ気なく言った夜鬼に従い、外に待機していた南天はすっと襖を閉めた。
ふたりきりかと思うと身がしまる。

「食え」と自分はおちょこを煽りながら夜鬼は促した。

「……いらない」

恵都は膳から顔をそむける。

「オレに従え」

「いらない。お腹空いてないし、もしかしたら毒とか入ってるかもしれないし」

夜鬼は舌打ちをして、自分の膳と恵都のものを取り替えた。

「これならいいだろう。それに、お前に危害を加えるつもりはない。――当分、な」

夜鬼は意味深なことを言って、箸をとった。



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