天翔ける君





恵都にはそれが誰だかすぐに分かった。
遠くて顔は判別できない。
身長や体格も分からない。

それでも恵都には分かるのだ。

四つの人影は恵都たちのほぼ真上にやってきた時、途端に高度を落とした。
落雷の轟音と共に落下してくる。

人影は見る間に大きく、恵都の目にもはっきりと見えた。

――千鬼!
名を叫びたいのに、喉が引き攣れて、声が出ない。


白い髪を舞い上げ、天を翔けて千鬼が降りてくる。

血を思わせる赤い瞳、黒い角はまさしく異形だ。
面頬の下には牙が隠れているのだろう。
そして白い髪は夜にこそ妖しさを増す。

落雷を従え、鬼に変化した姿は禍々しいはずなのに、神々しい。

一瞬のことだったのに、その姿は恵都の瞳に焼きついた。

ふわりと、重量を感じさせずに千鬼たちは着地した。




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