恋するキオク

疎外の中で




教室に戻ったって、一人なのは変わらない。

誰かが話しかけてくれるわけでもないし、話しかけたって、相手にされないのはもう分かってた。

ただ、どうしてそうなってしまったのか、それを誰に聞けばいいのか…

その答えが見つからなくて。



気がつけば一日はあっという間に終わり、時計を見ればもう部活の時間だった。

そういえば結城先輩は、あの時のことをどう思ってたんだろう。

あの日の生徒会室での出来事について、何か聞かれるかもしれないと思うと、部活へ出るのも気が重かった。



ひとつ上の階にある活動場所。

孤立する空気を足早に抜けて、音楽室へと階段を上る。



圭吾、来るって言ってたのに。

どうしたのかな…



そんな風に心配してみたけど、音楽室の扉を開ければ人の心配をしてる場合じゃないことにも気づかされた。

場所が変わっても同じ。

突き刺さるような視線は、ここでも続いてた。



「あの…今日の基礎練習場所は…」


「よく出て来れるよね」


「えっ……」


「うわっ、こっち見ないでよ。そのイヤらしい目で省吾先輩に迫ったんでしょ?」



な…なに、それ…



「生徒会室で『抱いてください!』でしょ〜。やばくない?」


「省吾先輩かわいそ〜。弟と天秤かけてどっちも試そうってのが最悪」


「もしかしてあれ?体の相性良かった方とお付き合いさせてもらいます、みたいな?」


「うっざ〜」



あちこちから聞こえる声。

なに?なんで…?

省吾がそう言ってたの?



私はもうその場に立ってることもできなくて。

準備室へ走って行って、棚から自分の楽器ケースを取り出そうと手を伸ばした。



「痛っ!」


ガシャン…

あっ……




ケースの裏に刺さっていた画鋲。

驚いて離してしまった瞬間に、楽器は下へと落下する。

そこから転がり落ちたフルートは、悲しい形を象って…



「……どう…しよ」



入学した時に、両親に買ってもらった大切な楽器。

私はそこにうずくまって、そのまま動けなくなった。



なんで、こうなるの…?




「修理が必要ね」


「結城先輩…」




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