恋するキオク
「これどう?いい曲揃ってるから、この楽譜本あげるよ」
夕暮れを待ち遠しく思うほどに、店主は少年のピアノの音色をとても気にいっていた。
もっといろんな曲を、たくさん聴かせてほしいと思っていた。
店に入った新作。
でも少年は、決してそれを受け取らない。
「自分の弾く曲は、自分で作りますから」
「ええーっ!?」
ちょっと生意気だ。
たしかに少年は自分で曲を作り、それを弾くということを繰り返していた。
でもやがて、
店主はあることに気づく。
なんて静かな曲ばかり…
優しいようで、でも儚い。
なんとなく少年の心が宿ってるように思えた。
そしてずいぶん経った頃、少年の兄弟にも出会った。
双子みたいにそっくりな兄。
それなのに
あまり仲が良くない様子。
何があるのかは分からないけど、少年の純粋な心はすぐにその気持ちを曲に表した。
家にいるよりも、ここにいる時間の方が長いのはもう定か。
この子…きっと独りなんだな。
ただ直感的に思ったこと。
店主は自分にできることが、この場所を提供することだけなのだろうかと考えた。
考えて考えて、それでも少年を癒してやることはできないのだろうかと半分諦めかけていた。
やがて
少年の容姿が突然変わる時が来る。
抑えてきた自分を出せてるならそれでいい、そう思ったが、少年の弾く曲は一層悲しくなっていった。
どうしてあげればいいんだろう。
それでもいつしか自分の仲間を見つけてきた少年。
ホッとした。
曲の雰囲気が、ほんの少し穏やかになった気がした。
でもそれも束の間。
また何かあったのか。
少年の曲は…
いや、音色が変わる。
迷いがあるんだね。
少年の兄と一緒に訪れた少女。
この子が何か関係あるのだろうか。
「キミも好きなの?圭吾くんのピアノ」
とても素直そうな少女。
この子が
少年のことを分かってくれたら…
親でもないのに、そんなことまで考えてしまった。