恋するキオク



「病院までは付き添ったんだけど、省吾くんと陽奈ちゃんの両親の前だと居にくくてさ。いろいろ聞こうとしたんだけど…」


「いいって。沢さんの存在は、オレにとって誰よりもありがたいから。その話を聞けただけで十分」


「そうかな…。圭吾くんの力になりたいとはいつも思ってるけど、なかなか上手くいかない」



沢さんの苦笑いを見て、オレも同じ顔を返した。

オレだって、全然思うようには行動できてない。

どう動くことが正しいのかも、未だに分かってない。



「省吾が一緒にいたなら、省吾が一番良く分かってんだろ。だからあいつと話すよ」


「…大丈夫か?」


「一応兄弟だから別に問題なんてない。その前に…、一度野崎に会ってくる」


「あ、それなんだけど…」







病院は学校の見える高台にあった。

毎日通ってたんだ。病院の窓からだってその校舎を眺めてれば、きっとその頃のことも思い出せる。

オレはそう思いながら、長い一本道を走っていた。



そして沢さんが店を出る時に言ったこと。

急激な記憶の回復は逆効果だから、オレは顔を合わせない方がいいのかもしれないって。

それに、その部分の記憶が欠けてるからって、今後にそれほど支障を来すものでもないから

最悪戻らなくても、普通に生活していけばいいと、医者が言ってたって。




それならオレは、そうすればいい?


どうせ何が正しいかなんて、理解できるほど器用でもないんだ。

思うままに動くしかないだろ。



「関係ないよ、そんなこと」




聞いた病室の番号を案内版で確認する。

行楽日和のこんな日も、病院にはたくさんの人が詰めかけていた。

急いで走って。

ぶつかりそうになる人混みを避けながら、ただ真っすぐに目指す目的の場所。



そこに、オレの全てはある。




< 176 / 276 >

この作品をシェア

pagetop