恋するキオク
次の日の朝、家に帰るとキッチンからは母親が小走りに近づいてきた。
小さい頃は、このささやかな笑顔にさえ幸せを感じてた。
「圭吾、おかえり。肩はもう治ってるんですってね。今日は父さんも母さんも早く帰るから、みんなでお祝いにごちそうでも食べましょ。
あ…そういえば久しぶりかもしれないわね、4人で一緒に食べるのも」
とくに変わった様子もない。
そんな普通の雰囲気に、少しの安堵感を覚える。
「わかったよ。省吾は…?」
「省吾は進路のことで相談があるからって、今日はずいぶん早くにお祖父さまの所へ出掛けたわ」
「そう…」
何を話しに行ってるのか気になったけど、追いかけたところでどうしようもない。
オレはしばらく家で時間をつぶした後、体の動くままに外へ出た。
結局、答えが見つからなくてもここへ来てしまうことはわかってたけど。
野崎の病院…
省吾がいなくても、野崎の両親がいれば会わせてはもらえない。
オレには近づけないようにって、省吾が話してあるはずだから。
見上げる白い建物が、胸に苦しい。
ーーっ…
「米倉くん?」
声に振り返ると、オレを見て驚きながら女が立ってた。
見たことはある…
「あ、あのね、私同じ学年の…って言うより、陽奈の友達って言った方がわかりやすいよね。春乃です」
「……」
とりあえず頭を下げたけど、オレがここにいることが見つかるとまずい人物だったかもしれない。
オレは少し身を引いた。
「あ、私敵じゃないし!前はそうでもなかったけど今は…いやいや、私は米倉くんと陽奈のこと応援してる派だからっ!」
「あぁ…そう…」
その友達はキョロキョロと辺りを見回すと、オレを建物の陰まで引っ張って行った。
なんだ…