恋するキオク
ーーー父親sideーーー
自分に授かるはずだった才能が、自分の家族を崩壊させた者に与えられた事実。
あの日のことは
あの日の悔しさは
一生忘れることができないまま、私を苦しめ続けるだろう。
「必要な養育費は、当然だがこちらがすべて用意する。お前はただ、この子を省吾と同じように息子として育ててくれればいい」
「何…言ってるんだ……。この子供は、一体誰の子供なんだよ!」
「お前には関係ない。それに…
お前の音楽への才能はもう見切れただろう。私に期待できるのは、もうこの子だけなんだよ」
音楽大学に行くつもりだった。
でも……、望んだ才能は手に入らなかった。
教育大学を卒業し、教師という職業を続けながらも、何となく未練を引きずっていた日々。
職場の同僚と結婚して、一人息子の省吾を音楽家にするのが夢になる。
自分が描いた夢を、息子に……
ところがその才能に花を咲かせたのは、憎むべきもう一人の息子。
「圭吾くんは本当に覚えが良くて…。もちろん省吾くんも上手ですけど、お父様も将来が楽しみですね」
なぜ省吾ではなく圭吾なんだ。
私の夢、それは圭吾に叶えてもらいたいものではない。
「あなた…、そんなに悩まなくても同じ子供なんだし。私は圭吾のこと、そんなに苦痛じゃないわ」
妻とは背負ってるものが違う。
私はずっと、音楽に対する気持ちを忘れられなかった。
「圭吾は私たちの子供ではない!それだけは忘れるな!私の前では…、私には圭吾の話をするな!」
「あなた…」
圭吾の奏でる旋律は、私の胸をいつも強く締め付けた。
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