恋するキオク
「圭吾、お前は誰からも愛されてなどいない。お前の父親だって、結局はお前を息子として認めてはいないんだ。だからいつまでも、お前の存在を隠し続けてる」
「オレは…、愛されないことになんてもう慣れてる。だから今さら別に…」
「ふざけるなっ!」
急に強く見据えられた視線で、わずかに足が震えた。
怒鳴った時の振動で留が外れて、狂ったメトロノームが気分の悪いリズムを刻みだす。
「お前は昔から犠牲者気取りだ。自分だけが報われていないんだと勘違いしている」
「な…」
「本当に苦しんできたのは圭吾、お前じゃない。私や妻や省吾の方だ。お前という存在のせいで、私たちの方がたくさんのことに耐えてきたんだ!…もうこれ以上、私たちに迷惑をかけるな」
「……っ」
オレの存在で
みんなが……?
ハァ、ハァ…
オレはどうして、また暗闇を走ってるんだろう。
破裂するんじゃないかって思うくらい、心臓がめちゃくちゃに暴れて。
前に見える明かりは、幼い頃から逃げてきた場所。
オレの存在を、たった一つ受け入れてくれた暖かい場所。
バタン…
「圭吾くんっ!どうした!」
「ここしか…ないんだ……」
「おいっ、大丈夫か!ちょっと待て、ここで倒れても困るから…って!すごい熱じゃないか!」
汗…?
オレ、泣いてんの……?
ホントは、全部辛いんだよ。
独りじゃ耐えきれなくて
助けてほしいんだ。
包まれて…いたいんだ。
親とはぐれた小鳥が、寂しくて鳴き方を忘れる時があるらしいよ。
意思の伝え方が、わからなくて
仲間にも溶け込めなくなる。
人間も同じって、初めて知った。
オレ……
もう弾けない。