恋するキオク
「別にいいんじゃない?忘れたことは、そんなに重要じゃないよ」
「ううん、違うの。私が忘れなかったら、もっとちゃんと」
「だから関係ないって。忘れてたってオレは…」
忘れてたって、オレは野崎が……
本当に、覚えていようが忘れていようが、野崎とオレの存在が変わることはない。
そんなことくらいで、こんなに強く想った気持ちが消えるわけもなかった。
結局ボロボロ泣き出した野崎に、手を差し伸べることも出来なくて、オレは行き場のない手をポケットに入れたまま空を見上げていた。
また抱き寄せて、記憶のない野崎を驚かすわけにもいかないから。
「お前…、っとによく泣くよな」
「ふぅっ…ぅ、だって……っ」
戻れたらな…
そう思わないようにしてるけど、気持ちをコントロールするのは、抑えることより難しい。
もう進むしかないのに、当たり前のように触れられた日を、いつまでも引きずってしまう。
20日…、来れなくても半分は仕方ないと思ってる。
今の野崎の中で、オレの存在より省吾の大きさが勝ってるなら、それも受け入れるべきことだから。
でも来てほしい
その気持ちだけは、分かってほしいんだ。
「待ってるから」
オレはそれだけ残して、屋上から階段を下りた。
足下をすくわれるような感覚で、わずかにも緊張していた自分に気がつく。
信じることは怖いけど、オレは信じようとする自分に自信を持ってる。
もう大丈夫だから。
野崎がいつまでも待てるって言ったんだ。
オレにだって、
それくらいできるよ。