恋するキオク
笑顔なのに、どこかで寂しそうな顔をする野崎に、ぐっと胸が切なくなる。
今はまだ一緒にいることはできないけど、吐き出してラクになる気持ちなら、いくらでも受け止めてやっていい。
オレにはもう、
お前しか見えてないから。
「そんな顔すんなよ…。なんか辛いことがあるなら言って」
「ううん、そうじゃないけど。みんなは米倉くんのこと、たくさん知ってるんだろうなって思ったから…。私は全部忘れちゃってて、知らないことばっかり……」
そう言って、指先を遊ばせながら下を向く仕草が
落ち込むような、でも少し恥ずかしがるような感じで
バカみたいに野崎のことしか考えてないオレは、また舞い上がる気持ちを抑えるのに必死になってた。
そんな風に思ってもらえるのが、いじらしくて。
なんていうか、今すぐにでも抱きしめてしまいたくて。
それってやっぱり、少しでもオレのこと知りたいって、そう思ってくれてるからなんだろうなって思ったから。
「そんなの、今からいくらでも知れるだろ。変なことで落ち込むなよ」
オレが自分のセリフに、恥ずかしさを感じて視線を逸らしても
野崎の嬉しそうな返事は、耳なんかを通り越してオレのずっと奥の方に響いてくる。
か細くて、でも透き通る風のような、優しい声。
「うん、そうだね。ありがとう、米倉くん」
「なんでありがとうなんだよ…」
「だって……」
首を傾けながら、野崎はまた微笑んで。
これ以上一緒にいたら、もう言葉を抑える自信もない…
人目も気にせず
場所も関係なく
その時のオレは、すぐにでも大声で叫んでしまいそうだったよ。
お前のことが、好きなんだって。
「なんか二人ともすっかりいい感じじゃん?でも、彼女ホント可愛いね」
「はっ!何言ってんだよ善矢」
「別にいいだろ〜。おい隠すなよ」