恋するキオク
省吾と一緒じゃないのか?あの話の返事をされるんじゃないか。
そんな不安も頭をよぎるけど、とにかく何か言葉をだすことに必死になる。
「…あんまり遅くに、出歩くなって」
「え。大丈夫だよ?」
暗くなりつつある外の様子を見て声をかければ、どうして心配されるのかと不思議な顔を返して。
どうせオレが、最初に送って帰ってやったことも忘れてるんだよな。
「ねぇ、それよりさっき聴こえてた曲。米倉くんが弾いてたの?」
「あー、あれは…まだ無し」
「無し…?無しって何?」
どうしてこんなに鈍感なのか。
だから、まだ聴かせるわけにはいかないんだって。
そう焦ってると、反対側の道路からは、相変わらずの声が聞こえてくる。
「圭吾ーっ!調子戻ってんのか!」
「うわ、茜!」
今は野崎がいるし、余計な空気を作られることを恐れて、オレは動揺した。
なぜなら、茜がくると絶対…
「あーっ、彼女来てんじゃん!もしかして、すでに戻っちゃってんのか?ってことは、圭吾もちゃんと自分の気持ち伝え…ん、ぐっ…んーーっ!」
「茜、この間はいろいろサンキュな。でも今日は忙しいから帰れ」
オレは茜の口を後ろから塞ぎ、調子に乗っていろいろ吐いてしまうことを避けようと制御した。
でも、その後から他の奴らが
「おぅ、圭吾。曲の進み具合はどうだ?あれ…もう彼女戻ってんの?」
「いつの間に!お前報告も無しに」
「なんだ、すでに恋は成就してたのか。じゃあオレらに遠慮なく、二階へ上がってくれれば…」
口々に野崎を惑わせるようなことばっかり連発。
まだ記憶も戻ってない野崎が、そんなこと聞いたらどうしていいか分からなくなるだろ!
「ちょ…、いいからお前らそれ以上口を開くな!」
と野崎を振り返れば、当の本人はこの雰囲気を楽しむようにニコニコと笑っていて。
「野崎…」
「なんか面白いね、米倉くんのお友達。それに…うらやましい」