恋するキオク
「…やっとここまで来れた」
一歩近づき、まだ下を向いてる野崎の髪に触れる。
柔らかい感触が、どこかでオレの中の想いをいっぱいにして
思わず流してしまいそうだった涙を、グッとこらえた。
こうやって後ろめたさを感じずに、自分の思うままに野崎の前に立てることが
未だ信じられないくらいに嬉しくて。
長くはなかったけど、オレと野崎の間には、ずっと見えないくらいの遠い距離があると思ってたから。
「オレさ、お前の存在にすごい支えられてた。だから今度は、オレを頼って欲しいんだ。……もう、何も悩む必要なんてないから」
オレが触れた手を、野崎がそっと握り返して
ただ見つめあう時間に、意味なく幸せを感じる。
願いが叶うことに慣れてなかったオレは、今を表現する仕草にも少し戸惑って。
すぐにでも野崎を抱きしめてしまえば良かったのかもしれないけど、野崎の家の玄関扉を見れば、そういうわけにもいかなかったから。
いきなり両親に出てこられても困るし…
「野崎、自転車ある?」
善矢たちが借りてくれた会場の時間に、もう間に合うのかどうかもわからない。
でも、今日またひとつ願いを叶えることができるなら、それはオレにとっての使命でもあると思うんだ。
「なるべく揺らさないようにするから」
野崎はしばらくオレを見て、それからゆっくりと後ろの荷台に腰をかけると
細い腕を背中から回しながら、オレにそっと寄り添ってきた。
「…っ、お前を走らせるわけにはいかないしな」
なんか、今更照れるのもバカみたいだけど
ずっと思い描いてきた光景が、実際目の前にやってくると変にぎこちなくて。
って……あ。
「おい、キミ誰だ。陽奈をどうする!…っ、もしかしてお前っ!」