妖刀奇譚
相槌を打ちかけて、玖皎がうん?と首をかしげるような声を発した。
「孫のおまえではなく友人を誘ったのか?
おまえ、不満ではないのか」
「そりゃ行きたかったけど、それで学校休むわけにはいかないでしょ。
来月にはまたテストと模試があるんだし尚更よ」
こういうとき、学生の身が嫌になる。
夏休みや冬休み、春休みの期間にあるツアーはどこもかしこも高いのだ、稼ぎ時なので当然だが。
「若いうちに稼ぎまくって、老後はシーズンオフに海外旅行しまくってやる」
と、以前広告を見た來世が言っていたのを思い出した。
「おおお、なんだこの国は、蠍を食っているぞ!」
いきなり玖皎がVTRに大きな反応をする。
確かに、画面ではアメリカ人の大柄な男性が、真っ黒に焼いた蠍の手にかぶりついているところだった。
永近がいるときは自分の話し声が彼に聞こえないよう気を使っていたが、今日から一週間は大丈夫だ。
「玖皎、驚きすぎ。あたし今からお昼まで勉強しているから静かにしてて」
「あ、すまん、分かった」
(絶対に無理だろうな)
そう胸の中でつぶやいた直後、また玖皎が声を上げた。
諦めて気にしないでおこう。
思葉は小さく息をついて、英語のワークを開いた。
玖皎との関係は良好だ。
別に悪かったわけではないが、以前より打ち解けられていると感じる。
來世の言った、遊ぶのは仲良くなるいい機会になるのは本当なのだと実感した。