妖刀奇譚
返ってきた言葉に思葉は混乱した。
霧雨玖皎の太刀を見、玖皎だと認めた男をもう一度見遣る。
「本当に、玖皎なの?」
「はあ?何を疑っている」
「だって、あんたが玖皎だったら、そっちの太刀は……」
「はあ?さっきから何を訳のわからないこ、とを……」
玖皎が何気ない様子で自分の左手に視線を落として、その表情が変わった。
ひどく衝撃を受けた顔つきで自身の両手を見つめる。
今、己の姿に気づいたらしい。
「なっ、こ、これは一体……!?
お、おい思葉、一体どうなっているんだ!?」
「そんなのあたしが聞きたいわよ」
「思葉、鏡はあるか?できるだけ大きなものがいいんだが」
「え?あーっと、あっちに全身鏡が」
思葉が言い終えるより早く玖皎は立ち上がり、彼女が指差した方へ歩く。
アンティークなフレームの全身鏡の前に立つと、驚いた声を発した。
「ど、どういうことだ……おれが、人の姿になっている……!」
(あれ?)
ぺたぺたと自分の身体を触っている玖皎を見て、思葉は違和感をおぼえた。
立ち上がって彼に近づく。
その途中で違和感の正体が分かった。
鏡に玖皎の姿が映っていないのだ。
彼が立っているところは、鏡にはその後ろのものが陽炎のように揺らめいて映っている。
玖皎が腋に挟んでいる太刀は、鏡の中では浮かんでいた。