妖刀奇譚





分かっていても、寒いものは寒いのだ。


思葉は指先に息を吹きかける。


はめたままでも太刀を振るうことができる手袋のため、防寒の性能は皆無だ。


カイロを持って行こうか悩んだが、ぐずぐずしている時間はないので我慢した。


明日は土曜日で予定は何もない、永近が帰宅するのは夜。


つまり、自由に動き回れるのは今日が最後なのだ。


永近が帰って来てしまえば、今のように家を抜け出すことはほとんど不可能である。



「よし、今日は見つけるまで帰らないわよ。


玖皎、付喪神の波動だっけ、それ探るのお願いね」


「努力するが見つけられる保証はできんぞ」



玖皎が政治家のような返事をする。


柄をぺし、と叩いて思葉は裏庭を出た。


表通りを横切り、かつて通っていた小学校のある方へ向かう。


昨夜、その近くのクラスメイトの姉が襲われたらしい。


少しでも情報を集めて付喪神の居場所を特定しようと動き続けた結果、以前よりも聞き耳を立てるのがうまくなった気がする。


大事なことを聞き逃さないようになって喜ぶべきか、余計なことまで聞く羽目になりそうだと悲しむべきか。



「この辺りか?」


「うん……クラスの人の話だとね、何か分かる?」



少し待ってろと言われたので、思葉は口を閉じる。


しばらく沈黙が流れたが、やがて玖皎のため息がそれを破った。




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