妖刀奇譚





琴は後を追いかけようとした。


けれども起き上がるどころか指一本動かせない。


声も出せない、瞬きもできない。


身体の芯から、どんどん熱が消えていく。


ひどく寒気がした。



(あ、れ……なんで、身体が動かない……?)



錆びた鉄の金臭い臭いが鼻につく。


見ると、倒れ伏している渡殿の床に、あの不気味に光を受ける液体が広がっていた。


琴の血だった、顔のすぐ横まで水溜まりのように流れている。


寒い、たまらなく寒い。


斬られたところの痛みはほとんど感じなくなっていた。



(……ああ、わらわは、もう死ぬのか)



琴はまるで他人事のように自分の最期を確信した。


生への執着心はほとんどない。


むしろ、しがらみや人の冷たさが溢れ返る世界から解放されるという気持ちの方が強かった。


でも、未練はある。


血溜まりに波紋が起こった。


のろのろと黒眸をそちらへ転がすと、一枚の花弁が落ちていた。


月光で白く見えるが、桜の花弁であった。


どこかで咲いているのだろうか、首を動かせないので探すことはできない。




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