妖刀奇譚





「なるほど、それで『玖皎』か。


『霧雨』はあの子が完成したときに霧雨が降っていたからそこから取ったのだと聞いていたが、『玖皎』の方は姿になぞらえた名であったのだな。


千年も前からそれを見抜いておったとは……晴明には一度会ってみたかったな。


あの陰陽師は、わらわの着裳よりも先に彼岸へ渡ってしまったが」



また琴が悲しそうに口元を緩める。


何か言おうとして、思葉は唇を結んだ。


言葉が思いつかない。


静かすぎる沈黙が流れる。


それを破ったのは琴だった。



「思葉よ。わらわがこうしてそなたと会い、そなたに記憶を観せたのはなぜか分かるか?」



脈絡のない質問に、思葉は黙って首を横に振った。



「そなたになら、本当に玖皎を託せると思うたのじゃ。


玖皎が供養にと神社に運ばれたとき、わらわはこの次に玖皎の主となった者を見届けるのを最後としていた。


もう、この世に留まっておれるほどの力が残っていなくてな、良くても悪くても、それを見届けたら閻魔王のもとへ渡ることを決めていた。


されど、諦めずこの世に残り続けて良かった。


あの子がそなたのような女子の手に渡るところを見届けられた……そなたなら、あの子で人を斬らないでくれる。


きっと、あの子を幸せにしてくれる。


だからわらわはそなたと会い、わらわの記憶の一部を観せようと決めたのじゃ」




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