妖刀奇譚





アスファルトできれいに舗装された山道を逸れ、半ば地面に埋まっている石段を登る。


そこからも外れて思葉は傾斜が少し急な木間を歩いた。


要は近道である。


転ばないように木々を手すりの代わりにして、思葉はどんどん先を進んだ。


玖皎は少しも疲れていない表情で後に続く。


やがて足元が平坦になり、雑木に包まれた場所に出た。


以前まで建造物か何かがあったのか、空き地はけっこうな広さがある。


思葉はその中心あたりに立つと、ぐぐっと伸びをして空を仰いだ。


枝の隙間から青々と澄んだ空が見える。



「あー、疲れた。


地図見てもよくわからなかったから勘だったんだけど、案外来れるもんなんだね」



玖皎は瞬きして思葉を見つめた。



「思葉……まさか、ここは」


「しのぎ山だよ」



そう、ここはしのぎ山。


かつて玖皎が納められていた廃神社のあった場所だ。


幕末の動乱からつい先日まで、人の手に渡ることなく玖皎が居続けた場所。


桜の花が咲き始めたと聞いたとき、思葉はここへ来たいと思った。


満刀根屋に来る前、彼が見ていた景色を自分の目でも見てみたいと感じたのだ。


まだ冬の景色が強くて少し寂しいが、これから暖かくなっていけば、周囲はきれいな花と色彩にあふれるのだろう。




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