妖刀奇譚
「思ったほど荒れていないね。
まあ、この間工事されたばっかりだし、当たり前といえば当たり前だけどさ」
何気ない調子で声をかけたが、玖皎からは返事がない。
顔を戻した思葉の傍らを通り過ぎ、彼女から少し離れた場所に立ってある一点に視線を向けた。
怒ったのかな?と感じたがそういうわけではないようだ。
「玖皎?」
「ちょうど、この辺りだったな」
玖皎は左手を振り、自分の周囲を示す。
「おれはこの辺りにあった板間に置かれて、その、つなぎといったか、それを着た男に見つかるまでここに居た。
板間には何もなかったが……庭の外には、曼珠沙華があったな」
「曼珠沙華って……ああ、彼岸花のこと?」
「ああ、それも一本や二本じゃないぞ、神社の周りを囲うようにして群生していたんだ。
毎年秋になると、開いた花で地面が真っ赤に見えたぞ。
訪れる者も神主も誰もいなくなってからも必ず咲いていた……見に来るやつなどいなかったのに。
つなぎの男たちが、あのぼろ神社と共にきれいさっぱり片づけたようだな」
思葉は改めて周囲を見回す。
赤い絨毯のように密集して咲く彼岸花。
なかなか想像がつかないが、実際に見たら、きっと圧倒されてしまうだろう。