妖刀奇譚
「……曼珠沙華は、姫がお好きな花だった」
「琴さんが?」
「寺にいた者たちは皆、『死人花』だの『地獄花』だの、『厄病花』だのと呼んで、不吉な花だと忌み嫌っていたがな。
姫は曼珠沙華の花の形や、枝葉も節も無く咲く姿を好んでいた。
異名のひとつに『捨子花』というものがあることも気に入っていたな、まるで自分を表す花だと」
玖皎の声が、どこか切なげな響きを纏って春の微風に溶けていく。
思葉はあの日、夢と阿毘たちが作り出した空間の中で出会った琴の姿を思い出した。
確かに琴は、華美に咲き誇る大輪の花よりも、道端に咲く花の方に心惹かれそうな性をしていた。
(やっぱり、琴さんのことをちゃんと見ていたのね)
それだけでどれほど琴を大切に思っていたのかが伝わってくる。
すると、玖皎がこちらを振り向いて小さく笑った。
笑ったというより口元の力を緩めたという様だった。
「……ああ、別に、当時を引きずっているというわけではないぞ。
ただ、姫のことを少し思い出しただけだ」
「うん」
分かっている。
思葉は頷き、再び空き地を見渡した。