domino

32

　レジでDVDを受け取り鞄にしまおうとした。が、自分が鞄を持っていない事に気が付いた。深呼吸をして、落ち着いて、落ち着いて考えた。
　「店を入る時までは持っていた。間違いない。」
　「その後、CDを探して店の中を廻った。その時は持っていた。」
　「ポルノグラフィティのコーナーに着いた。その時も持っていた。」
　「DVDコーナーでは持っていた？」
　記憶を遡った。
　「彼女が僕を引っ張った時。あの時にCDの売り場に鞄を置いたままだ。」
　革靴で滑る店内を、慌ててCDコーナーへ走った。少し転びそうになって、CDコーナーの周りを見回した。一回、二回、三回・・・。僕の黒い鞄はなかった。もう一回見てみた。やっぱりなかった。慌てて店員に確認しても見ていないと言う答えしか返ってこなかった。
　頭の中が真っ白になった。
　「鞄の中にはトランスライダーの社長からもらった資料のDVDが入っていたのに・・・。」
　「まだ、中も見ていないぞ。明日、吉原先輩になんて言ったらいいんだ？」
　「こんな事ばれたら、二人ともクビだよ・・・。」
　とにかく店を出てとにかく探す事にした。
　右、左、右。見回しながら走りまくった。
でも、どこにも僕の鞄は見つからなかった。ただ、諦める事は出来なかった。もし、見つからなかったら、僕だけじゃなく吉原先輩にまで迷惑をかけてしまう、そう思うと探し続けなくてはいけなかった。
　「少し休もう。」
　目の前に見えた公園のベンチに腰掛けた。
　「なんで、こんな時にあの声が聞こえないんだよ。」
　「おい。聞こえているなら鞄の場所を教えてくれよ。」
　そう呟いた声が、公園の中に静かに響いた。