domino
34
 気が付くといつの間にか家に着いていた。息を整えながら、さっきまでの出来事を整理していた。
 「さっきのあの感覚は、いったい何だったんだ?」
 そう思いながら鏡に映る自分を確認した。
僕の記憶の中では、殴られ、蹴られ、見るも無惨な姿になっているはずだった。しかし、スーツはまるで新品のように綺麗になっていて、どこにも汚れが付いているようには見えなかった。顔も血色良く、殴られた痕などどこにもなかった。むしろ、いつもよりも健康にすら見えた。その事がよりいっそう僕を混乱させた。
 そして、だんだんと理解できない事を自分の都合の良いように解釈しようとしていた。
 「あれは現実じゃない。きっと、疲れていたんだ。最近、調子悪いしな。」
 無理にでもそう思いこまなければ、気分が悪くなりそうだった。それくらいに男たちの倒れている光景は僕が今まで見てきたどんな世界とも違いすぎていた。そう思いこもうとし始めた時、鞄の横に置いてある黄色い袋に気が付いた。
 「なんだ、これ?」
 袋を手に取ると中に“ポルノグラフィティ ライブツアー”そう書いてあるDVDが入っていた。ゆっくりと記憶が浮かんできた。
 「これは彼女から手渡されたDVD?」
 DVDを見つめていくうちに、だんだんと記憶がはっきりし出した。そのDVDは間違いなく彼女から手渡されたものだ、そう思い出した時、僕はまた混乱し始めた。
 「さっきのあの感覚は現実?」
 そうは思ったもののとても受け入れられるものではなかった。僕はもう一度強引に、都合の良いように解釈しようとしていた。
 「あれは幻。」
 「あれは幻。」
 「あれは幻。」
 そう頭の中で繰り返した。しかし、そう思いこもうとすればするほど、あの男たちの姿がはっきりと思い出された。
 「あれは現実?」
 結局、答えが出ないまま東の窓は明るくなっていた。
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