domino
 「こんな時ってどんな顔したらいいんだろう・・・。」
 色々心の中で表情を作ってみてもピンと来るものがなかった。何も浮かばないまま振り向いた。その時の表情は怒っているようでもあり、泣いているようでもあり、笑っているようでもある何とも不自然な表情だった。
 「ぷぷぷ・・・。大河内さん、私じゃなかったら不振者で通報されちゃいますよ。」
 屈託のない笑顔でそう言いながら、僕の胸を人差し指でちょこんと押した。僕の鼓動の早さが彼女に伝わるのではないかと気が気でなかった。そして、その事がそのまま顔に出ていた。
 「もっと、おかしな顔になっている。逮捕しちゃいますよ。」
 僕の手首は彼女の両手で逮捕された。もう、心臓は爆発しそうだった。
 「あっ、あっ、ビール買わなきゃ。」
 声が裏返りながら、精一杯の抵抗を彼女にした。このままだとどうにかなりそうだった。
 「だめだめ。逮捕されたんだから、ビールなんて買わせません。」
 笑いながら上目遣いで僕を見た。その表情に顔が真っ赤になって、もうどうする事も出来なくなっていた。そんな僕の顔を見て彼女は言った。
 「あはは。お父さんみたい。」
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