domino
50
 また、真っ赤な世界にいた。この間と同じ真っ赤な世界だ。これが現実とはとても思えなかった。この間と同じように現実と思えなかった。
 目を懲らすと真っ黒い陰がゆらゆらと遠退いていった。その陰を見ると僕は追いかけずにはいられなかった。地面の感触がない中を精一杯駆け続けた。その速さは現実離れしていた。何百メートル、いや何キロも先に見えた影がみるみる近づいてきた。その影が目の前に来た時、黒い皮膚、長い7本の指と爪、にじみ出した血、そんな見た事もない腕がその黒い影を捕まえた。
 真っ赤な地面にその影を叩きつけると、“ムンクの叫び”のような顔が更に歪んでいた。ただ、叫び声は聞こえる事はなく、悶える、その表情だけが印象的だった。
 黒い影の顔を、もしかしたら皮膚なのかもしれない、それをメリメリと剥がした。剥がした中に一瞬、和田の顔が見えた気がした。
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