domino
フェラーリが3台見えてきた。そして、そのフェラーリの向こうに見覚えのある人影があった。
「あれ?」
僕はフェラーリよりも彼女に視線を奪われていた。
「また、会いましたね。」
思わずにやけてしまった。目の前にさっき別れたばかりの鈴木友里がいたからだ。
「ね。」
彼女はたった一言そう答えた。そのたった一言が無性に可愛く感じた。僕の顔は緩みっぱなしだ。
 「どうしてこんな所にいるんですか?」
 そんな風に彼女に話しかける姿がフェラーリに映っていた。手にしわくちゃのハンカチを持ち、汗を拭いているその姿はとても間が抜けていた。
 「ここはお父さんの会社なんです。」
 その答えにまた口をポカンと開けてしまった。僕の姿は更に間が抜けたようになっていた。そんな僕の顔を見て、彼女はクスリとしながらこう言った。
 「こんな所でお話するのもあれですから、とりあえず中に入りませんか?」
 そう僕に言うと彼女はビルの中に入っていった。その姿は今までに見た事のない凛とした姿で、彼女のまだ知らない一面を感じた瞬間だった。彼女の答えにあっけに取られ、彼女のその姿に見とれていた僕はしばらくそこに立ち止まったままだった。
 彼女の後ろ姿がビルの中に消えると、僕はやっと我に返る事が出来た。大きく深呼吸をして、彼女を追いかけビルの中に僕も消えた。
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