domino
 あの声が聞こえないなら、自分で彼女のお父さんに直接話を聞くしかない。そう思い、僕はトランスライダーの前にいた。そしてすぐに、僕が彼女と付き合う事になったあの会議室に通された。
 「なんだい?急に。」
 そう言いながらも、僕が何を言おうとしているのかは完全にわかっているようだった。
 「うちの社長から聞いたのですが、僕を引き抜きたいとおっしゃったそうですね。」
 僕のその言葉を聞くと、彼女のお父さんが含み笑いをしているのがわかった。そして、僕が求めている答えは返ってこなかった。
 「友里とは仲良くやっているのかい?」
 あまりに意外な切り返しに、僕はただ短く返事をする事しか出来なかった。
 「はい。」
 その答えを聞くと、また同じように含み笑いをした。
 「友里は毎日楽しそうに君の事話すのだよ。本当に楽しそうに。そんな友里が時折寂しそうな顔をするんだ。どうしてかわかるかい?」
 この質問の答えは僕には全く検討がつかなかった。付き合って間もない事もあるが、ケンカなんかした事もなかった。僕といる時の彼女はいつも笑顔で楽しそうだった。そんな彼女が寂しそうな顔をするなんて想像も出来なかった。
 「友里はね、君はレースが終わったらいなくなるんじゃないかって心配しているのだよ。あくまでも仕事の上の事で自分と付き合っているとね。だから、君を試すと言うのは申し訳ないが、わざと社長に連絡したのだよ。もし、君が仕事の上で友里と付き合っているなら断ってくるはずだからね。」
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