domino
 「おはようございます。今日からこちらでお世話になります大河内 彰と申します。よろしくお願いいたします。」
 トランスライダーでの第一声はこの言葉だった。今回のプロジェクトで出入りしていた事もあり、僕が配属された部署はほとんど顔見知りだった。
 「今日から一緒の会社って事で前よりはお手柔らかに頼むよ。」
 そう挨拶してきたのが直接の上司にあたる三上常務だった。人は良いのだが少しのんびりしている所があり、僕と何度ももめた人の一人だった。そこにもう一人、やはり何度ももめた神田幸三郎がやって来た。
取引先だった時もすごく感じの悪い奴だったが、一緒に働く事になるとここまで感じの悪い男なのかと驚かされた。
 「あんたか。なんでうちの会社に来たのかしれないけど、俺の邪魔はしないでくれよな。」
 神田は僕の部下になると聞いていた。それなのにこの態度には、かつての和田を思わせるものがあった。
 「確か、僕は君の上司になるはずなんだけどね。」
 少し突っかかった言い方をしてみた。その言葉を聞いても態度を改めるでもなく、相変わらずの悪態をついてきた。
 「はあ?この会社じゃ俺の方が先輩だよ。」
 はっきり言ってこういう馬鹿は苦手だった。自分の立場と言うものが、まるで理解出来ていない。いつまで経っても精神年齢が低い、子供のままの人間は話し合いをする事もまともに出来ないからだ。
 これ以上はこんな奴に言っても無駄だと思い、僕は無視して他の人たちに挨拶に回る事にした。その態度が神田にはやはり気に障ったのだろう、更に悪態は続いた。
 「今度はシカトかよ。お高くとまりやがって。」
 あまりにも横柄な態度に僕の中でまた血の世界が徐々に拡がり始めた気がした。
ただ、それは単なる気のせいだった。あの世界はもう一度拡がる事もなく、僕は無事に一日の仕事を終えた。
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