domino
 「色々あったけれども、もう、だいぶ慣れたようだね。」
 そう言う社長の目は少し寂しそうだった。でも、それは神田がいなくなった事とは関係がないように思えた。
 「はい。おかげさまで。」
 社長室にいる社長は友里と一緒にいる時の優しさは感じられなかった。僕は社長室にいる社長には、なかなか慣れずにいた。
 「しかし、早いものだね。来週には君は僕の義理の息子だ。」
 社長が寂しそうな目をしていたのは、愛娘がもうすぐ結婚してしまう事に対してだったようだ。さすがの社長も娘が結婚という事に関しては“人の子”なんだと思った。
 「そうですね。来週からはお義父さんとでも呼ばせてもらいましょうか。」
 冗談交じりにそう言ってみた。すると、社長は少し不機嫌な顔をした。
 「お義父さん、冗談じゃない。」
 その言葉を聞いて明らかに発言を間違えたと後悔した。しかし、お父さんの口からは意外な言葉が続けられた。
 「もうすぐ、君は私の事を会長と呼ぶようになるのだよ。」
 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。が、すぐにどういう事かわかった。
 「僕が社長という事だよな・・・。」
 そう考えると笑いが止まらなかったがグッと堪えた。そして、わざと社長に聞いてみた。
 「どういう事でしょうか。」
 「君みたいな優秀な男がわからないとは言わせないよ。」
 それだけ僕に言うとポンと僕の肩を叩きながら社長室を出て行った。
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