domino
5
 気がつくと自分のマンションの前にいた。ハッと我に返り後ろを振り返ったが、もう警察官の姿はなかった。ホッとした気分と、後悔と、色々な気持ちが混ざりながら僕は自分の部屋の鍵を開けた。
 走り終えてからしばらくしても、体の震えが収まらなかった。鼓動が早くなっている訳でもなく、警察官に捕まるかもしれないそんな恐怖でもなく、一番近いとすれば、高校の時だったろうか、クラスに好きな女の子がいた。その彼女もやはり、髪が長く色白で清楚なお嬢様、そんな感じの女の子だった。クラス替えがある少し前、僕は思いきって彼女に告白した。
 もう、どんな事を話したとかそんな事は緊張しすぎていて全く覚えていない。ただ、一つ覚えている事は彼女に振られた時の激しい後悔、悲しさ、自分自身への怒り、そんな感情が入り交じった時に感じた体の震え。それに一番近かった。
 あの時は、僕は2週間くらい学校を休んだと思う。
 けど、今はそうはいかない。明日も会社に行かなければいけない。僕はつまらない会社員だから・・・。
 そう冷静になった時に気がついた。
 「彼女に顔を見られている。」
 明日もきっと彼女は同じ電車に乗ってくるだろう。僕も変えるわけにはいかない。逆に変えたら、それこそ怪しまれるんじゃないか・・・そもそもいつもの僕の顔を彼女が覚えている訳がない。でも、今日の僕の顔ははっきり見ているはずだ。だとしたら、どうすればいい?答えの出ない自問自答を繰り返していた。
 いくら自問自答をしても答えなんか出るわけがなかった。そもそも、なんで彼女の後をつけたんだろう・・・もう、自分自身がわからなくなっていた。
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