domino
23
 家に着くと、食事も取らずに僕は雑誌を読み出した。一冊、また一冊とどんどん読み進めていった。彼女に知識に少しでも追いつくため、一度読み終わった雑誌をもう一度見直したり、気になる記事をメモしてみたり、今までに経験した事ない集中力で読み続けた。
 時計の針はもう2時を回っていた。
 「さすがに腹減ったな。」
 独り言を言いながら、冷蔵庫を開けた。冷気が少し心地よかった。ビールを2本、魚肉ソーセージを1パック手に取り、テーブルの上に置いた。
 プシュッ。
ビールを開ける音が部屋中に響いた。その音を聞いた途端に、集中力が消えていくのがよくわかった。さっきまで読んでいた雑誌をパラパラめくっていても、全然頭に入ってこない。その代わりに睡魔が僕の頭の中になだれ込み始めた。
 「もう、遅いしな。これ飲んだら寝るか。」
 そう言いながら、ビールを一口飲んだ。
その瞬間、誰かに鈍器で殴られたかのような激痛が僕を襲った。あまりの痛みにどうする事も出来ずにのたうち回るしかなかった。ビールの缶が倒れ、中身がどんどん床に広がっていくのが見えた。救急車を呼ぼう、そう思っても声を出す事すら出来なかった。僕の頭の中には「死」の文字がゆっくりと現れ始めていた。
 ビールが全部こぼれ、最後の一滴がゆっくりと波紋を広げていった。
 同時に、僕の意識は消えていった。
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