ピアノを弾く黒猫
数分後、あたしは大学から近い古びたビルの前到着し、中へ入って行く。
ここの5階の防音室で、奈々恵さんは練習をし、コンサートの打ち合わせなどを行(おこな)っている。
あたしもこの間来たんだよね。
扉を開けると、奈々恵さんがバイオリンを弾いていた手を止めた。
「優ちゃん、待ってたわ」
「おはようございます、奈々恵さん」
「どうぞ、座って」
勧められた椅子に座り、あたしは奈々恵さんと向き合う。
「悪かったわね、突然呼びだして」
「構いませんよ。
あたしも丁度、奈々恵さんに用事がありますから」
「そうなの?
どうする?優ちゃんから言う?」
「いえ、奈々恵さんのお話が先で良いです」
「わかったわ。
優ちゃん、あなた以前、海外に留学か弟子入りを希望しているって言っていたわよね」
「はい」
「実はね、良いお話が舞い込んできたのよ」
「何ですか?」
「この間優ちゃん、コンサートに出てくれたじゃない?
その様子を、海外の音大の教授さんが見ていたらしいのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。
伴奏として弾いている優ちゃんを見て、是非我が大学にって言っていたのよ」
「えっ!?」
驚いた。
海外の音大の教授さんが、あたしを……?