ピアノを弾く黒猫
奈々恵さんに音大名を聞いてみると、かなり名の知れた音楽大学だった。
そこからプロになる人は多い。
ただし学費が高く、あたしにとっては雲の上の存在だった。
そんな有名すぎる音大の教授さんが、あたしをスカウトしてきたなんて。
信じられなかった。
「優ちゃんさえ良ければ、返事をしてみればどうかしら?
ただし行くってオッケーしても、正式に留学するのは次の4月からなんだけどね」
「4月、ですか」
まだ1年以上ある。
「学費は…?」
「学費について心配することはないそうよ。
優ちゃんは特待生入学として扱われるみたいだから」
特待生入学…。
普通の一般家庭育ちのあたしにとっては、思っても見ない申し出。
設備も整っているし、学費以外は何も心配することはない。
そんな学費についても心配することがなくなるんだ。
素晴らしい条件だと思った。
「答えをもらうのは、また今度で良いと仰っていたわ。
優ちゃんもよくご両親と相談して、迷いなく決めてね」
「はい、ありがとうございます」
あたしはペコンッと頭を下げた。