悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
しばらくして、ドアをノックする音がし

た。


「……どうぞ」


「失礼します」


おずおずと部屋に入って来た彼女。


「……遅かったな」


声をかければ、視線をそらす彼女。


「ご用はなんでしょうか?」


「……」


知らぬふりも後少しだ。今日の夜、お前

を堕とす。


「早速で悪いが、今日の夜、パーティー

に同伴してほしい」


何が気に入らないのか、俺の好意も必死

に抵抗しようとしていて面白くない。


「……君には、大事な役目をしてもらう

んだ。そこら辺で借りてきたドレスでは

困る。意味がわかるか⁈」


「……はい。ですが、『話は以上だ』」


まだ、何かを言おうとする彼女の言葉を

遮った。


気落ちした彼女の表情が頭の中から離れ

ず、仕事にならない。


彼女がすごすごと部屋を出て行くときに

優しい言葉を言えなかったものかときつ

く言い過ぎた事を反省していると、俺の

携帯が鳴る。


電話の相手は峯岸だ。


『副社長、やはり大和の狐がパーティー

に出席します。それと先ほどの件ですが

狸社長の思惑を会長はご存知ではないよ

うです』


「そうか…社長は来るのか⁈」


『いいえ…今回は、欠席のようです』


「それなら、大和会長を味方につけやす

いな…」


『何を企んでいるのですか?』


「一石二鳥を狙う」


『……上手くいくことを願いますよ』


電話の向こうで呆れたように声が冷たく

なった。


『そろそろ、彼女が準備に向かう時間で

す。お独りで寂しいと思いますが、社長

の服は、後ほどお持ちいたしますので、

しばらく我慢してください。』


小馬鹿にした言い方にカチンとくるが、

峯岸の働きに感謝し、グッと堪え電話を

切った。


秘書の彼女が黙って出て行くはずもなく

、何をしているのかと気になり覗いてみ

れば、俺に気付かずに何かを一生懸命書

いている。


そっと歩み寄り、彼女の手帳を覗く。


「俺に気づかないほど何に集中している

のかと思えば……」


手帳を奪う。


「……よくできている。業種別にわけ、

業者同士の関係性だけでなく、取り引き

先の内情まで。これだけの情報を集める

のは大変だったろう⁈」

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