悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
社長室にコーヒーを持ってきた時の彼女

はとても冷静で、秘書に徹する姿勢に苛

立ちを覚えた。


どこまで俺を無視するつもりなのだと思

いながら、一つの案が浮かんだ。


俺を無視できない状況を作ればいい…た

だ、側に置いて置くだけでは彼女の心は

動かないだろう。


彼女の誕生日まで、約、3ヶ月……時間

があまりない。強行手段を取ってでも俺

の側から離しはしない。


******************



俺が副社長に就任し、彼女に辞令がおり

た。


早速、社長室に乗り込んできた彼女は、

俺の存在など気づかないまま社長に嘆願

している。


そこまで俺の側は嫌なのか⁈


苛立ちとともに声に出していた。


「社長…すでに決まった事です。彼女が

退職すると言うのならそれまで僕の秘書

として勤めてもらいます」


「ですが…『決定事項だ』」


異議を唱えようとする彼女の言葉を遮っ

た。


誕生日がくれば、彼女が退職するのはわ

かっていたが、あからさまに拒絶される

とこたえる。


副社長室で仕事にも手がつかず、ソファ

の上でうなだれていると峯岸が入ってき

た。


奴は、高校の時からの腐れ縁で何を考え

ているかわからない奴だが、嘘を吐かな

い。毒舌だが仕事のできる男だ。


だから、契約秘書を生業としている峯岸

を俺の専属秘書に引き抜いた。


「社長、例の報告が届きました」


「あぁ…」


「ここ数年、男の影はないようです。会

社と家の往復で、休日は、1人で過ごす

という寂しい日々のようですね」


相変わらず、容赦がない。


もっと、オブラートに包んで言えないも

のだろうか⁈


「わかった…」


「それと、もう一つご報告があります。

大和の狸が動き出しました。後、狐が、

あなたが戻られた事を知っているようで

すよ」


「あの女…油断ならないな」


「今日のパーティに現れるでしょう。一

気にあなたとの結婚に動くと思われます




「……そのパーティに俺が出よう。伝え

ておいてくれ…」


「はい…かしこまりました」


「…あっ、彼女も連れていく」


このチャンスを生かそう。


「よろしいのですか?」


「あぁ、狐を排除して彼女を誘惑するか

な⁈真琴に連絡しておいてくれ…」


「…恐ろしい人ですね」


何かを含んだ笑みを浮かべたら峯岸は呆

れたように部屋を出て行った。

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