悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
黒塗りの車レクサスと峯岸さんが待って

いた。


「遅かったですね」


「あぁ、鋭気を蓄えていた」


クスッと笑い棘のある嫌味をスッとかわ

し、運転席に零が座った。


(えっ…)


峯岸さんが運転するものと思っていた胡

桃は戸惑う。


「胡桃、乗って‼︎」


ウィンドウを下げ零が催促する。


峯岸さんと零の顔を交互に見つめても、

峯岸さんは動く気配がない。


苛立ちだし、ハンドルの上で音を立て指

先を動かしているので慌てて後ろの席の

ドアに手をかけた。


「隣だ」


副社長に運転させて、秘書が助手席⁈


後部座席に座るのもおかしな話のような

気もする。


苛立つ彼に言われるまま、助手席のドア

を開け横に座ると直ぐに車が動き出す。


「お気をつけて…」


ウィンドウを閉める窓から峯岸さんの声

が遮られていた。


「シートベルトしてよ」


「あっ…すみません」


5分程の沈黙


彼は何を考えているのか無言だった。


運転の邪魔をしたくないので、私も無言

で外の景色を見つめていると見覚えのあ

るホテルについた。


地下駐車場に車を止めて、彼の後につい

て行く。




最上階のレストラン


「待たせたな」


「いや‥お前との久しぶりの食事だ。ど

れだけでも待つさ」


池上社長は、零にも負けない整った顔で

爽やかな笑顔を向けた。


私の豆知識では、池上社長は大和会長の

何番目かの娘さんのお孫さんで、零と同

じで建築士で確か、ご自分で会社を経営

されていたはずだ。


「お前は、彼女か⁈」


「いや‥俺、奥さんいるし」


零の突っ込みに真面目に答えている姿に

クスッと笑いが溢れてしまった。


「あれ⁇美人の婚約者さんも一緒とはね」


素敵な男性にお世話でも美人と言われ、

頬が染まる。


「…本日は、副社長秘書として参りまし

た」


「へぇ〜、そうなんだ。峯岸がいるのに

誰の思惑で副社長秘書なんかなったんだ

ろうね」


ニヤニヤと零を見ていた。


「…峯岸には、例の案件を任せているか

ら…普段の業務をこなす秘書が必要だっ

たんだ」


「そんな言い訳しなくてもいいのに…で

、例の件で何かわかったのか?」


ムスッとする零をからかい池上社長は、

直ぐに社長の顔に戻っていた。


例の案件⁇


「あぁ、やっぱり大和社長が絡んでいる

とおもう。顧客と業者を調べてみないと

はっきり言えないが、去年のクレームや

事故は大半が大和に繋がるはずだ」


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