悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
チュッ


唇にリップ音を立てて私の好きな笑顔で

微笑み頭を撫でる。


「さぁ、峯岸に怒られる前に戻らないと

な⁈」


まるで、私が引き止めたような言い方だ




「そうですよ…峯岸さんが待ってますよ




嫌味を込めて返事を返した。




会社に戻れば、峯岸さんが眉間に皺を寄

せ待ち構えていた。


「お早いお帰りですね」


峯岸さんの背後から冷気がでているよう

だ。


「時間通りだと思うが…」


峯岸さんの嫌味を笑顔でスルッとかわし

副社長に入っていく。


秘書室に峯岸さんと残されいたたまれな

い。


「宮内さん…」


「は、はい」


声がうわずる。


「私が頼んだ仕事お願いしますね」


冷たい表情のまま背を向けでていった。


ただ、判子をもらい届けるだけの簡単な

仕事だけど私に与えられた仕事だ。


気持ちを切り替え、副社長室にお茶を持

っていく。


机の上で、すでに仕事にとりかかってい

る零。


邪魔にならないようにお茶を置くと、零

と一度視線があった。


「ありがとう」


「確認が終わりましたら声をかけてくだ

さい‥失礼します」


つい数十分前までとは別人の零。


気持ちを切り替えたはずなのに上司と部

下という線を引かれ、心が彷徨う。


私達の関係性はなんなのだろう⁈


偽の恋人を演じるつもりが偽婚約者にな

り、欲望のまま何度も身体を重ねている。


恋人でも婚約者でもない


それなら愛人⁈


いや‥愛人でもない


私は、なんなのだろう⁈


彼の前から消えるまでと納得したはずな


のに、どんどん欲張りになっていく。


零の心がほしい…偽物じゃなく本物にな


りたい


身体を重ねるだけじゃなく好きだとか愛

してるとか囁いてほしい


そんな欲望が脳裏を渦巻く


彼にとって私は都合のいい女なのだろう

とわかっていても、時折見せる甘い言葉

と笑顔に勘違いしてしまう。


だから、誕生日までとはいわず1日でも

早く彼の側から離れなければと改めて感

じてしまった。


副社長から書類を受け取り、峯岸さんの

元へ運べば…

「お疲れ様です。今日はもうよろしいで

すよ」


遠回しに私の仕事はもうないと言われ、

副社長に挨拶をしてアパートに帰るとす

ぐに実家に電話した。


「お母さん…お見合いの件だけど…」


「あら、ちょうどよかったわ。とても素

敵なお相手がいるのよ……」
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