悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
彼女の体を起こし、膝の上にもう一度乗

せると彼女の頭をポンポンとたたいて自

分の取り戻す。


頬を染め、潤んだ瞳が艶ぽく彼女から目

が離せない。


「その顔は、俺の前だけで頼む」


頬を押さえ、かわいく睨んでくる。


やっぱり、我慢できそうにないな。


抵抗しない彼女をぎゅっと抱きしめた。


「続きは、後で…」


ドアを叩く音がすると峯岸が冷徹な表情

で立っていた。


思ったより早い峯岸の登場に心で舌打ち

しながらもどこかホッとしている。奴が

現れなかったら誘惑に負けていただろう

。もちろん、無意識の誘惑なのだが、こ

れがタチが悪い。


なぜなら、キスしたくなる唇も頬を染め

恥ずかし気にうつむく表情も潤んだ瞳も

彼女のスーツの下にある手のひらに収ま

る胸、くびれたウエストもスカートの下

から見える細い足も全て俺の物だと思う

と歯止めが効かなくなる。


結局、彼女に惚れているから俺が勝手に

惑わされているだけなんだ。


峯岸に持って来させた指輪を彼女の指に

戻し、彼女の唇に触れた。


あぁ、峯岸がいなければここでキスした

いのに…


背後で峯岸がチッと舌打ちするとただな

らぬ冷気が…彼女は慌てて戻って行って

しまった。


あーぁ…


「零、朝からいい加減にしろ。俺はお前

の嫁じゃない…いい加減にあの女落とせ

よ」


最近、似たようなセリフ聞いたな⁈


「落ちてるようで落ちてないんだよ」


「はぁ⁈なんだそりゃ?お前が愛してる

って一言言えば済む話だろうが⁈」


そうなんだろうか?


「それならこんなに苦労しないさ。俺と

再会したのに拒絶して知らんぷりした女

だぞ…それに、見合い結婚して辞めるな

んて俺の前で言いきったんだ。簡単に俺

になびかないさ。だから、足したり引い

たりして駆け引きしてるところ」



「お前…それって本気で言ってるのか⁈




頷く俺


「お前、バカか⁈」


⁇ …相変わらず優しくない奴。


「どう言う意味だ⁈」


「百戦錬磨のお前が、一人の女の心も読

めないバカな奴だと言う意味ですが…」


悪友から秘書口調になり、この話はここ

で終わりだと峯岸の態度が変わった。


ハイハイ…仕事に戻りますよ。


「峯岸」


「何でしょうか?」

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