悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
「社長、私への辞令ですが、結婚の為数

ヶ月後に退職致します。ですから、副社

長の秘書は別の誰かを任命してください

……」


「……うーん、そうだったのか⁈困った

な⁇」


「社長には、折をみて近々、ご報告する

つもりでいました。まさか、私が副社長

秘書になるとは思いもしなかったので、

こんな形で報告させて頂き、申し訳ござ

いません」


深々と頭を下げると、視線の先にあるソ

ファに長い足を組んでいる人物が見えた




「零…副社長秘書は別の誰かに頼もう」


社長がソファに座る男に声をかける。


「社長…すでに決まった事です。彼女が

退職すると言うのならそれまで僕の秘書

として勤めてもらいます」


後ろの男に振り向き、意義を唱えようと

する。


「ですが…『決定事項だ』」


有無を言わせない低い声で脅され、萎縮

して反論できなかった…。


社長を見れば、申し訳なさそうに視線を

落とした。


もう、諦めるしかないの?


「辞表を出しても受理はしない…まさか

、一社会人として無責任な行動はしない

と思うが…」


心を見透かしていたように言われ、返す

言葉もなかった。


心を閉ざし諦めて数ヶ月を接しようと誓

い、秘書課に戻れば私の席がなくなって

いる。


「室長、私の席がないのですが⁇」


「ああ、君の席は副社長室に移動してあ

るよ」


「…どうしてですか?」


「君には常に副社長の側でサポートして

ほしいそうだよ。なんでも、重要な案件

があるらしく時間のロスを避けるためら

しい」


逃げ場を失い、途方にくれた。


常に副社長の側にいて、心が平常でいら

れるだろうか?


副社長秘書室のドアの向こうに、彼がい

る。


覚悟を決め、ドアをノックしようとする

とドアが開き、彼ほどではないが背の高

い男性が目の前にいた。


「失礼…君は宮内さんだね」


「はい…」


「私は、副社長第1秘書の峯岸です」


第1秘書⁈


どう言うことなのだろう⁇


怪訝な表情をしていた私に峯岸さんが答

えた。


「君は、第2秘書として副社長の側でサ

ポートするのが仕事だ」


「はい…その件は伺ってますが、峯岸さ

んのお仕事は?」


「君には関係ないことです」


私は何をサポートするのだろう⁈


「君は、何も考えなくていい。副社長が

お待ちだ」
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