悪い男〜嘘つきより愛を込めて〜
「あなたという人は、最後まで罪な人で

すね。そんなかわいいことを言われたら

彼に渡したくなくなります」


金城さんはフッと優しく微笑むと私をそ

っと抱きしめ彼の腕の中でしばらく包ま

れていた。


背後でガタッと椅子が動く音がすると、

金城さんの肩を押した手によって引き剥

がされる。


「……もう、いいだろう⁈」


聞き覚えのあるハスキーな声の主が私を

抱きしめた瞬間、愛しい人の香りに胸が

ときめく。


「……」


「…ふっ…それだけの独占欲がある人が

どうして彼女に悲しそうな表情をさせた

んですか⁈」


今までに聞いたことのない金城さんの低

い声。


「俺が不甲斐ないせいだな…」


私を見て切な気に呟いた。


「わかっているならいいですよ。今度こ

そ彼女を幸せにしてあげてください」


「そのつもりです。金城さん、あなたの

気持ちを無駄にしません。あなた以上に

俺は彼女を愛しています。必ず、幸せに

します」


「そうだと願いますよ」


俺様な零が、低姿勢で金城さんに断言し

、金城さんは肩をすくめて口元を歪ませ

ていた。


自然と溢れてくる涙。


本当に⁈


夢じゃないの⁈


零がわたしを…愛している⁈


「その言葉が聞けて良かったです…胡桃

さん…どうか彼とお幸せに」


零に肩を抱かれている私を見て金城さん

は切なそうに微笑むと去って行ってしま

った。


ありがとう…


もう、2度と零の側から離れません。



「……胡桃」


優しく私を呼ぶ愛しい人の声。


「……零」


「俺たち、ちゃんと話し合おう」


「えぇ、そうね」


「胡桃に見せたいものがある。ドライブ

しないか⁈」


尋ねているくせに、肩に置かれた彼の手

は歩みを進めるように誘導してくる。


相変わらず強引な…


そんなところも好きなんだけど…


お店の駐車場に停めてある高級そうな外

車のハザードランプが音をたて光る。


「乗るんだ」


有無を言わせない零が助手席を開け、私

を押し込んだ。


「ちょっ‥と、押さなくてもいいでしょ

う」


「お前のことだ。油断させておいてまた

逃げると思ってな」


「……‥」


ニヒルな笑みを浮かべドアを閉めると、

運転席に座った。


(またか⁈……あなたにそう思わせる程

、私はあなたから逃げてばかりだったの

ね)



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