命の上で輝いて

「何をやってたの。心配したじゃない。」
金切り声が閑静な住宅街に響いた。いつもより2時間も帰宅の遅い娘、美沙に母の雅子は体を震わせて怒鳴った。
「電話に出たじゃん」
普段帰ってくる時間の一時間遅い22時に美沙は母からの電話に出たが、それからまた一時間も遅い23時に茜は帰宅した。少し美沙は雅子の口調が気に入らないようだった。
「こんな遅くまで何やってたの」
「公園でぼおっとしてた」
美沙は玄関でただ俯いていた。ぼそりと呟いたが、それは雅子の足もとに落ちていくようなか細いものだった。
父の靖はただただ無事に帰ってきた娘の姿を見て安堵していた。
「女の子がこんな夜中まで歩いてたら危ないじゃない。もうすぐで警察に電話するところだったのよ。物騒な世の中なんだから。わかってるの」
雅子の問いかけに、美沙は頷くだけだった。
「もう、一人で夜出かけるの禁止にするからね。」
普段の温厚な雅子からは想像もできないほど感情的な発言だった。
雅子の眼はうっすら赤みを帯びており、どこか数時間前よりも頬がこけている印象すら感じられる。
そんな雅子の愛情に気が付いたのか、はたまた迷惑をかけてしまった罪悪感だったのか、美沙の瞳から涙が零れ落ちた。
「まぁ、その辺でいいじゃないか。次からは気をつけなさい。母さんに心配をかけるんじゃないぞ」
そういうと靖は諌めるように雅子の肩を叩いて、一緒にリビングの方へ戻っていった。
美沙はしばらく玄関に立ち尽くしていたが、脱力したようにしゃがみこみ、靴ひもをほどいて、自分の部屋へと戻っていった。
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