Love nest~盲愛~
手渡された運転免許証には、『西賀 哲平』と記されている。
偽名ではないという事が分かった。
本籍はこことは違う場所になっている。
恐らく、ご実家の場所なのだろう。
「ありがとうございました」
「気は済んだか?」
「……はい」
本当は全然済んでない。
私を何処で知ったのか、いつから知っているのか。
これが一番重要なのに……。
けれど、このまま有耶無耶には出来ない。
まだ確認する手はある。
ちゃんとシュミレーションした甲斐があったようだ。
彼の鋭い視線が向けられても、焦りはしつつもパニック状態には陥らずに済んでいる。
「では、………これに見覚えがありますか?」
私はガウンのポケットから、あの押し葉のしおりを取り出し、彼の前に差し出した。
彼は無言のまま、フッと僅かに口角を持ち上げ、再びブランデーを口にする。
「がちょう番の少女という童話をご存じですか?」
質問のパターンは何通りも考えてある。
会話をやり取りする雰囲気からして、無意識に答えてしまうというパターンは無いはず。
答えをしっかり考えてから答えるはずだから、聞く方も慎重を期す必要がある。
緊迫した空気が張り詰める。
覚悟はしていたが、予想以上に緊張する。
彼が口を開こうとしない所をみると、私の推察はほぼ当たっているようだ。
彼が、みさきお兄ちゃんだという、私の予想が。
私の分のグラスもいつも用意されている。
アルコール度数が高いから飲まないようにしていただけ。
だけど、今日ばかりは飲んでおいた方がいい気がして……。
グラスに少しだけブランデーを注ぎ、それをクイっと飲み干した。