Love nest~盲愛~

10時半を回ると、エントランスに白川が運転する車が横付けされる。

会社まで送り届けてくれる手筈になっているからだ。


「お願いします」


えなが後部座席に座ると、優雅な所作でドアが閉められた。

白川は、この道30年のベテラン運転手である。

哲平の実父の運転手をしていた白川を、8年ほど前に探し当て雇用したのだ。

白川だけではない。

今井も他のスタッフも、哲平は少しずつ探し出し、自分の手元に置いている。

実の両親が受けた恩を返す為に。

哲平の父親の会社が西賀に譲渡されたのは、哲平が15歳の時。

両親を事故で亡くし、経営の存続が厳しくなってゆく中、最後の最後まで父親の会社に尽くしてくれた従業員たちに感謝の念は一日たりとも忘れたことは無い。

えなの父親もその1人だ。

従業員ではないが、旧知の仲だった友の死を目の当たりにし、哲平を引き取ろうとしていた。

だが、それと同時に自身が病に侵され、未成年だった哲平を引き取ることが出来なかったのだ。

自身の愛娘でさえ、病気と闘いながら育てるのは苦労が絶えなかったから。


哲平の父親の会社を西賀に乗っ取られないように、えなの父親は陰で尽力していた。

それは、今井や白川から後に知らされた話ではあるが。

だからこそ、自立した今、これまでの恩を少しずつでも返そうとしている。



そんなことをえなは知る由もないが……。

**

会社のエントランスに車が横付けされ、後部座席からえなが下りる。

白川に挨拶していた、その時。

えなが乗って来た車のすぐ後ろに、もう一台の車が停車した。

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