Love nest~盲愛~
「古市……さん?何処かで聞き覚えのあるような名前だけど、どなただったかしら?」
女性は思い出すような、そんな仕草を見せる。
西賀家がどんな事業を展開しているのかは分からないが、父の会社は紙器専門の会社だった。
包装紙や化粧箱、段ボールなど紙全般の事業を手広く展開していたから、もしかしたら接点があったかもしれない。
「まぁ、いいわ。近いうちに席を設けるから、お食事でも如何かしら?」
「はい、喜んで」
ここまで来たら、後には引けない。
彼が長年かけて努力して来たんだもの。
このチャンスを逃したら、彼が壊れてしまうかもしれない。
「では、またその時に」
「もうお帰りに?」
「顔は見たから帰るわ」
「そうですか。お気をつけて」
彼の言葉に冷笑しながら車に乗り込んだ女性。
エントランス前でUターンして、帰って行った。
「哲平さん、ごめんなさい。出しゃばった真似をして」
「いや、助かったよ。白川も連絡助かった」
「いえ、私はすべき事をしただけです」
「とりあえず、中に。もう少ししたら食事に出るから、白川は待機しててくれ」
「承知しました」
彼は私の手を握り返し、歩き出した。
「哲平さん?」
「ん?」
「プロポーズ、楽しみに待ってますから」
「フフッ、催促するとはいい度胸だな」
強張っていた表情が気になって、少しでも心の負担を軽くしてあげたかった。
私に出来ることなんて、たかがしれてる。
今はただ、彼の長年の計画が上手くいく事を願うばかり。