Love nest~盲愛~

「古市……さん?何処かで聞き覚えのあるような名前だけど、どなただったかしら?」


女性は思い出すような、そんな仕草を見せる。


西賀家がどんな事業を展開しているのかは分からないが、父の会社は紙器専門の会社だった。

包装紙や化粧箱、段ボールなど紙全般の事業を手広く展開していたから、もしかしたら接点があったかもしれない。


「まぁ、いいわ。近いうちに席を設けるから、お食事でも如何かしら?」

「はい、喜んで」


ここまで来たら、後には引けない。

彼が長年かけて努力して来たんだもの。

このチャンスを逃したら、彼が壊れてしまうかもしれない。


「では、またその時に」

「もうお帰りに?」

「顔は見たから帰るわ」

「そうですか。お気をつけて」


彼の言葉に冷笑しながら車に乗り込んだ女性。

エントランス前でUターンして、帰って行った。


「哲平さん、ごめんなさい。出しゃばった真似をして」

「いや、助かったよ。白川も連絡助かった」

「いえ、私はすべき事をしただけです」

「とりあえず、中に。もう少ししたら食事に出るから、白川は待機しててくれ」

「承知しました」


彼は私の手を握り返し、歩き出した。


「哲平さん?」

「ん?」

「プロポーズ、楽しみに待ってますから」

「フフッ、催促するとはいい度胸だな」


強張っていた表情が気になって、少しでも心の負担を軽くしてあげたかった。

私に出来ることなんて、たかがしれてる。


今はただ、彼の長年の計画が上手くいく事を願うばかり。

< 137 / 222 >

この作品をシェア

pagetop