Love nest~盲愛~
一網打尽

とある日の朝。

彼から盗聴の一件を知らされ、お互いの自室以外の場所にもあると思うと、美味しそうな食事ですら喉を通らない。


「えな様、ご気分でもお悪いのですか?」

「あ、いえ。少し寝不足なだけです」

「坊ちゃま、えな様を可愛がるのは程々になさいませっ!元々食の細いえな様が食事を摂らないとなると、御子を育てるのは困難にございますよ」

「分かってるって。あまりに可愛いもんだから、つい。反省反省~」

「て、哲平さんっ」


私が食べないばかりに、彼に飛び火が移ってしまった。

なのに、彼はそれをさらりと交わす。

今井さんの直球も想定内なのか、軽くあしらうように。

この会話ですら盗聴されているかもしれないというのに……。

2人の神経が常識を超えていて、言葉にならない。

今までもこんな生活をずっと続けて来たのだろう。

だから、彼は必然的に無口なのかもしれない。


「あ~ぁ、色んな事考えるの止めました!お料理に申し訳ないから、戴きます!」

「フッ、やっとえならしくなったな」



7時半過ぎ。

出勤支度を手伝うために彼の部屋を訪れる。

ネクタイを結び終えた彼が、誰かと通話中。

テーブルの上に置かれたカフスボタンを手にして、スマホを持ってない方の袖にカフスをつける。

すると、スマホを持ち替えた彼。

すぐさまもう片方の袖にもカフスをつける。

仕事用のジュラルミンケースが開いていて、そこにノートパソコンと手帳などを入れ終わると、背後から彼に抱き締められ、仄かに煙草の香りが鼻腔を掠めた。

< 180 / 222 >

この作品をシェア

pagetop