Love nest~盲愛~

父の介護をした経験が役に立つ。

大柄の男性相手でも、着替えくらいは出来るスキルが備わっている。

ホットタオルで汗を拭き上げ、手早く着替えを済ませる。

タオルを濯いで、額の汗も拭う。

乱れている前髪を横に流して様子を窺うが、寝ているのか、意識が朦朧としているのか、反応がない。

体の震えもだいぶ落ち着き、汗も引いたようだ。


何かの病気で発作が起きたのか。

それとも、悪夢に魘されたのか。

はたまた心的苦痛で何かを思い出して苦しくなったのか。


私も同じような経験がある。

大学2年の時に最愛の父が亡くなった時。

独りぼっちになった恐怖で暫く魘されていたから。


肩まで掛け布団をかけて、優しく髪を撫でる。

いつも彼がしてくれるみたいに……。

すると、その手に彼の手が重なった。

ゆっくりと開かれた瞼の隙間から覗く彼の瞳は、見たことも無いほどに弱々しくて……。

何を言うでもなく、ただじっと見つめられて。

私に何かを伝えようとしているように思えた。

傍にいて……そう感じた。


指示されたわけでもない。

何かを求められたわけでもないのに。

(いざな)われるようにベッドの中へと。

そして、彼の頭をそっと持ち上げて。


大したことは出来ない。

傍にいることくらいしか、私には出来ないから。


彼を胸に抱きしめ、背中を優しく摩る。


嫌がるでも拒絶するでもなく。

彼は無言のまま、されるがままに……。


苦しそうな表情は次第に落ち着き、いつしか規律のいい寝息が聞こえて来た。

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