Love nest~盲愛~
ムスクの香りに包まれ、いつもとは違う視界が広がっていた。
そう言えば、昨夜は彼の部屋で……。
部屋中見回しても彼の姿がない。
当然、彼のベッドに横たわっているのは私だけ。
急いで起き上がり、時間を確認すると9時を過ぎていた。
彼は既に出勤したようだ。
起こしてくれてもいいのに。
それに、あんなにも苦しそうだったのに、大丈夫なのかしら?
1日くらい休んでも良さそうなものなのに……。
サイドテーブルやソファーテーブルを確認したが、メモらしきものも無い。
『ありがとう』のメモくらいあっても良さそうなのに。
それすら必要のない関係ということ。
好きになれと言われても、どうしたら好きになれるのかが分からない。
遠い記憶の片隅にある淡い初恋の感情ですら、『恋』と呼べるものではないかもしれない。
幼い頃に抱いた『憧れ』のような感情のように思える。
絵本の世界から飛び出した王子様のように思えて。
そもそも、私が彼を好きになったとしても、彼が私を好きだとは限らない。
『violette』のあかりさんが言っていた。
男性は愛がなくても女性を抱く、と。
彼もそうなのだろうか。
だから、あんな風に軽々しく『抱いてやる』だなんて口にするのかもしれない。
優しい一面を覗かせたと思えば、冷たく突き放すみたいに素っ気ない素振りを見せたり。
男性に恋心を抱く術をどうやったら身に着けられるのか……。
出口の見えない問題に直面し、爽やかな目覚めだったのに気分は憂鬱。
重い足取りで自室へと向かった。